過去日記4


 ハロウィンがしたいです、と、彼のただ一人の弟子である少女が言い出したのは、彼らのマスター武藤遊戯が暮らす日本国の暦で十月の三十日にあたる日のことだった。
 闇晦ましの城に遣いに出すまではハロウィンのハの字も口にしていなかった少女だが、城で何やら吹き込まれたと見えて、帰って来るなりハロウィンハロウィンと一つ覚えのように繰り返す。
 確かに闇晦ましの城では明日の日没からその翌日にかけてハロウィン祭を執り行うらしく、少女を遣いに出したのも、祭りに使うリンボクの樹皮を分けてほしいと持ちかけられたためだった。ハロウィン祭に関わりの深いリンボクの樹皮は、薬袋紙を染めるのに用いるので、彼らの城砦でも春先に山で採取したものを貯蔵庫に備蓄している。薬袋紙の紙料や染料についての知識は右から左に受け流すくせに、祭りとなると途端に熱が入る不肖の弟子である。
 彼らが生を受け、死を迎えた、はるか遠い砂漠の国には、そういう祭りは存在しなかった。この時期は、ワファー・アンニール、いわゆるナイル満水の祝いも終わり、耕作地の水門を気にかける他はそう大きな祭りもない、農閑期に近い季節だった。王宮では宰相率いる官僚たちが民に頒布する種麦の多寡を定め、市井ではやがて来たるペレトの寒気に備えて暖炉の煙出しを清め、収穫期までの数ヶ月間を養う食料を穀物倉に蓄える。日頃は神殿に出向いて屋敷を空けることの多い彼も、この時期には自邸に帰ってペレトを迎える支度の指揮をしたものだった。
 よそはよそ。うちはうち。そう言って退けるのは容易かったが、ハロウィンハロウィンと騒ぐ少女の姿を見るうちに、ふと気が変わった。かつて彼らが生きた土地にはなかった風習ではあるものの、見識を広げるという点において、他国の習俗を学ぶことには意義がある。特にハロウィンは魔術的な要素が強い祭りであるだけに、学ぶべきところも多いだろう。
 「今回だけだぞ」
 そう前置きしてから頷くと、少女は目を丸くして、いいんですか、本当に、本当にいいんですか、と、くどいくらいに念を押した。彼が話に乗ってくるなどと夢にも思っていなかったという顔をして、何度も言質を取ってから、ようやく顔を笑みの形にする。喜色満面で「そしたらまずは準備ですけど」と言いかけた少女に、彼はもう一度頷いて、「骨は私が用意する。お前は暖炉の掃除だ」と広間を指で示した。
 「骨? ……暖炉??」
 「まだ煤を掃っていなかっただろう。薪は南の吹き抜けに積んであるからいいとして、軽く清めておいた方がいい。骨を用意するついでに明日の供物の材料も調達してくるから、お前はその間に暖炉を掃除して、薪を運んでおけ」
 彼の言葉に少女は首を傾げて怪訝な顔をしたが、彼が「分かったな」と念を入れると、まだ得心が行かない顔ながら首を縦に振った。下手に反論して彼の気が変わったらまずいとでも思ったのだろう。
 薪はよく乾いたものを選んで運ぶように、と少女に言いつけて、彼は瞬間移動で城砦を後にした。まずは骨と、卵、それから蜂蜜を用意する必要がある。



っていうところまで書いて投げ出したBM師弟。
このあと
・師弟でお菓子作るけど、作ったお菓子は師匠が玄関にお供えしちゃうよ!
・トリックオアオリートを期待してた弟子ががっかりするよ!
・着替えとかはどうするんですか?っていう弟子に、外で火祭りするからって師匠が防寒させるよ!
・魔女っ子コスプレを期待してた弟子ががっかりするよ!
・日没過ぎたら篝火焚いて、なんかいい感じの雰囲気になったところで師匠が火の中に牛骨投げ入れるよ!臭うよ!
・弟子がとにかくがっかりするよ!
・なんかもういいです…ってなってる弟子に牛骨持たせて、自分は篝火の燃えさし持って、師匠が暖炉に火を入れるよ!
・昔の習慣(たった今捏造しました)で弟子を膝に乗せて、弟子に持たせた牛骨の燃え方を見て師匠が太占的なことするよ!
・吉兆だったよ!よかったね!終わり!
みたいな流れになる感じだった。

太占は鹿の骨だし、サウィンでの占いがどういう風にして行われるのかも知らないけど、あんまり牛骨だの鹿の骨だので骨骨するのも面倒だったので牛の骨で占いする師匠。
江戸時代は日の出が一日のはじまりだったけど、ケルトでは日没が一日のはじまりなんですね。キリスト教でもそういうことになってるから、サウィン(11月1日)に対しての10月31日とか、クリスマス(12月25日)に対しての12月24日とか、日本では前夜祭的な位置づけにしてるけど、昔の向こうの人にとっては同じ一日の中での話だって言うのが、なんか面白くて好き。