読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

過去日記30


ウェストカー・パピルスの物語より
スネフル王の御代の奇蹟ーー娘漕手たちの話

 するとバウフラー(王子)が立ち上がって話しを始めました。「私は陛下に陛下の父王、声正しきスネフル王(陛下)の御代におこった奇蹟についてお聞かせいたしましょう。(それは)首席典礼司祭、ジャジャエムアンクの行なった(数ある)奇蹟の(一つ)でございまして、(四・二〇)[………]これまで(一度も)起らなかったようなこと[なのでございます]。
 [ある日スネフル王はなにか気晴らし]はないかと王宮(万才!)(6)の[部屋部屋をくまなく歩きまわってみましたが、なにもみつからなかったのでございます。そこで王は申されました。]『首席典礼司祭で[書記]長であるジャジャエムアンクを連れてこさせよう。』すぐさまかれが連れてこられました。そこで陛下は申されました。『(余は)何か気晴らしはないかと王宮(万才!)の[部屋部屋をくまなく歩きまわってみたが](五・一)何もみつからなかった』と。ジャジャエムアンクは答えました。『陛下よ、王宮(万才!)の池においでになり、宮中の美しい娘たちをみなお舟に乗りこませになって下さい。娘たちが櫂をとって上り下りするさまは陛下のお心を楽しませることと思います。(五・五)そして池の美しい茂み、池を縁取る野原やその美しい岸をごらんになれば、陛下のお心はきっと楽しまれると思います。』(陛下は申されました)『よろしい、船遊びをいたそう、金張りの黒檀製の櫂を二十本もってまいれ。柄のところは〈白檀〉製で上質の金で飾ったものだ。また二十人の娘を連れてまいれ。(五・十)身体美しく、乳房(ひきしまり)、髪を編み、(まだ)子供を産んだことのない(娘たち)だ。また二十枚のネットをもってまいり、この娘たちが着物を脱いだらこのネットをつけてやれ。』そこで王さまの申された通りにされました。
 すると娘たちは櫂をとって上り下りし、陛下のお心は娘たちの漕ぐさまをみて満足でした。(五・一五)ところが船尾にいた一人が編んだ髪をもつらせ、新しいトルコ玉の魚形の耳飾りが水中に落ちました。するとこの娘は静かになり(7)、漕ぐのもやめました。そしてその一行(も)静かになり漕ぐのをやめました。そこで陛下は申されました。『どうした、もう漕がないのか。』娘たちは答えました。『私たちの指揮をされるかたが(五・二〇)静かになったのです。そのかたは漕ぐのもやめました。』陛下はその娘にたずねられました。『どうして、そなたはもう漕ごうとしないのじゃ。』娘は答えました。『新しいトルコ玉の魚形の耳飾りが水の中に落ちた[のです]。』そこで[陛下は申されました。『余が]代りをつかわそうか。』だが[娘は答えました。『同じようなものよりも]私のもの[がすきなのです。]』そこで[陛下は]申されました。[『行って首席]典礼司祭[ジャジャエムアンク]を連れてこい。』すぐかれは連れてこられました。
 そこで陛下は(六・一)申されました。『わが兄弟、ジャジャエムアンクよ。余はそなたの申した通りにやってみた。余の心は娘たちの漕ぐさまをみて楽しんだ。だが指揮をとる娘の新しいトルコ玉の魚形の耳飾りが水の中に落ち、そのため娘は静かになり、漕ぐのをやめてしまった。そこで、みなも〈漕ぐのをやめ〉てしまった。余が娘に(六・五)「どうして、そなたはもう漕ごうとしないのじゃ」とたずねると、娘は「新しいトルコ玉の魚形の耳飾りが水の中に落ちてしまったのです」と申した。余は「ただ(一心に)漕げ、余がその代りをつかわそう」と申したのに、娘は「同じようなものより私のものがすきなのです」と答えるのじゃ』と。
 そこで首席典礼司祭ジャジャエムアンクはいくつかの呪文をとなえ、池の水の半分を他の半分の上に重ねました。そして石のかけらの上にのっている魚形の耳飾りをみつけました。(六・一〇)かれはそれをとりに行き、耳飾りはその持ち主に返されました。ところで、その真中で十二腕尺だった水は、重ねあわされた後では二十四腕尺になっておりました。かれはまたいくつかの呪文をとなえ、池の水をもとの状態にかえしました。
 陛下は王宮(万才!)全体とともにお祭り気分で(その)日をすごされました。それから首席典礼司祭(六・一五)ジャジャエムアンクにあらゆるよきものをおつかわしになりました。
 これがあなたの父、声正しきスネフル王(陛下)におこった奇蹟首席典礼司祭で書記長であるジャジャエムアンクの行なった(数ある)奇蹟の(一つ)でございます。」
 すると声正しきクフ王陛下は申されました。「パン千個、ビール百罎、牛一頭および香二山を声正しきスネフル王(陛下)に献納するように。(六・二〇)また菓子一個、ビール一罎および香一山を首席典礼司祭で書記長であるジャジャエムアンクに与えよ。なぜなら、余はそのわざのほどを知ったのであるから」と。
 そして陛下の命ぜられたとおりに実行されました。

(杉勇・屋形禎亮訳「エジプト神話集成」〈筑摩書房二〇一六年九月十日発行第一刷〉31から34頁より引用)

※スネフル王は紀元前2500~2600頃の人なので、マハードたちの時代より千五、六百年前の話。

関係ないけど、働き手の歌にはよく「お天気はおれたちの望みどおり」って文句が出てくる。
あと、「良い日は冷たい」(パヘリ)「こんな良い日が国にやってきた、北風がやってきた」(刈り手のいう答えの畳句)「手を休めるな、(今日は)涼しいからな!」(打穀のうた)みたいな、今日は涼しいから作業日和だ!的な文句が入る。